③糸島ファーム

 

珍しい野菜を栽培し、間引きしたものも活用する

『ホテル日航福岡』では、自然豊かな糸島市の久保田農園さんと提携し、自社農園『ホテル日航福岡 糸島ファーム』で30数種類ほどの野菜を栽培しています。約2千平方メートルの畑で毎日野菜の手入れをしているのは、委託を受けた地元の農家・柴田信之さんです。柴田さんは「野菜が小さいうちはどうしても虫が付きやすいので1~2回消毒しますが、大きく成長してからは農薬を使いません。無農薬と言ってもいいほどなので、カリフラワーやパプリカは虫に食われて食材にならないこともありますよ。イノシシにサツマイモを食べられたこともあるので、電柵を設置しました」。

 

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ロールキャベツに向いているサボイキャベツ(上の写真真ん中)や、紅芯大根(上の写真右)など、なるべく市場に出回らない珍しい品種を栽培しています。柴田さんは「間引きした小さな野菜もすべてホテルに送るんですが、漬物にするなど無駄なく活用されています」。

ホテル内の『和食処 弁慶』で出される漬物が好評で、お客様から「買って帰りたい」という要望が多く、お持ち帰りパックも開発されました(右下の写真)。パック内の左上が人参の葉の佃煮、その下が紅芯大根の甘酢漬け。右は間引き小松菜の浅漬け。本来捨てられてしまう部分を活用し、丁寧に調理されています。

 

畝ごとに違う作物で多品種少量

「この畝は、かつお菜」(左下の写真)というように、畝ごとに違う野菜が植えられています。同じ畝に異なる野菜の場合もあり、とにかく多品種少量。例えばタマネギでも極早生・早生・晩生と、あえて収穫時期をずらした品種を扱います。冬はニンジンやカブ等根菜類が多く、聖護院大根はじめ大根を5~6種類。ビーツ、ターサイ、長崎原産のグラウンドペチカ(右下の写真)という赤いジャガイモは、別名デストロイヤー。往年のプロレスラーのように、穴あきマスクから目鼻が見える様子に似ています。

海のそばなので塩害を避けるため畑は防風林で囲まれていますが、その内側にレモンやダイダイ、シークァーサー等柑橘類の樹も植えてあります。たくさん育てば、ポン酢なども自家製になる日が来るかもしれません。大事そうにレモンを見つめるのは、2022 年 7 月 に就任された千々松雅敏総料理長です。


 

28年間糸島に通った中橋名誉総料理長の思いを受けて

自社農園を持つ一番の目的は、安心・安全な材料を仕入れたいのでも、新鮮な食材を安定供給したいわけでもありません。そもそも『ホテル日航福岡』の7 つのレストランや宴会場・披露宴すべての食材を賄える量が生産できるほどの広さはないのです。

千々松総料理長は、「中橋名誉総料理長の『農園をスタッフの学びの場にしたい』という熱い思いが実を結んだんです。糸島に惚れ込んで28年通い、やっと農園を開くことができました」と、前総料理長の思い入れを語ります。

奈良県出身で大阪で修行された中橋名誉総料理長は、1989年の『ホテル日航福岡』開業と同時に総料理長に就任されました。「九州は食材の宝庫だ」と感動し、各地の生産者を訪ねる中で、糸島市の久保田農園との出会いがあったそうです。久保田前社長が珍しい野菜の種を世界中から集めていらしたこともあり、農地を借りて2017年1月に『ホテル日航福岡 糸島ファーム』がオープン。看板の温かみのあるイラストは、中橋名誉総料理長の手描きです。

新人オリエンテーションも畑で開催。さらにレストランの料理人や接客スタッフは月に2~3回、交代で畑を訪れ(コロナ前は月3~4回)、柴田さんに畝の作り方や野菜の手入れなどを教えてもらいます。現場で見て触れて、良い野菜を育てるにはどんな土壌が良いのか、気候の変動がどう影響するのか、虫や野菜の被害に遭うなど使えない野菜がどれくらい出るのか……、そんなことを自ら感じてほしいというのが中橋名誉総料理長の願いです。

スタッフの中には畑が身近になかった人もいて、「ピーナッツが土の中にあるとは……」と驚くこともあります。また自分たちが一生懸命世話をした野菜が動物に食べられてしまったり、夏の暑さで葉物野菜が収穫できなくなったりする経験もするでしょう。野菜の有り難みを感じれば、できるだけ残さず使おうと工夫します。調理担当ではなく接客担当のスタッフも、お客様に「糸島野菜の○○でございます」と提供する際の自信につながります。


千々松総料理長は「畑仕事をすると、メニューを考案する料理人の創作意欲が湧くんです」と、柴田さんと一緒に土いじりをされています。柴田さんも、「見たこともない野菜を育てて、『これ、どうやって食べるんですか』と尋ねると、シェフがレシピを教えてくれるんですよ」と嬉しそうです。

 

見えないところにもSDGsを意識

収穫した野菜をホテルに運ぶ際にも、久保田農園の使用済み段ボール箱をリユースし、ボロボロになったら古紙回収に出してリサイクル。お客様の目に触れないところでもSDGsを意識しています。また食品ロスを減らすために、ホテルで調理した際に出る皮などの野菜クズから糸島ファームに持ち込んで、堆肥を作るコンポストへ。質の良い堆肥づくりのため、福岡農業大学校の先生の指導を受けています。

畑仕事は勤務時間中なのですが、土いじりは精神衛生上にも良い効果があるそうで、スタッフは『糸島ファーム』に行く日を楽しみにしています。

スタッフ教育だけではなく、親子を招待して収穫体験を行うなど食育にも一役買う同ホテル。想定外に収穫が多かった時は、こども食堂に寄付するなどして野菜を無駄にしないようにしています。


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