かねたけの里公園

 

2012年オープンの大規模里山公園

 福岡市西区金武にある『かねたけの里公園』は、天孫降臨伝説のある飯盛山など脊振山系から連なる山々をバックにした、福岡市唯一の大規模里山公園です。福岡都市高速道路「野芥ランプ」から約5km、福岡市中心部から車で約30分という好立地から、年間約7万人がアウトドアライフを楽しんでいます。2012年のオープン時の基本構想から関わったのが、株式会社エスティ環境設計研究所の松本和也さんです。「本来は設計のみですが、現在は同公園の指定管理をしています」と言う松本さんは、一級造園施工管理技士やビオトープ管理士、技術士などの資格を活かし約12ヘクタールの広さ里山公園の管理を担っています。

 

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「里というのは都市と農村の中間にあるもの。都市が近いのが特徴です」。森や竹林に囲まれた田んぼや畑でおこなわれる農の営みと共に、動植物と人間とが共生してきた場所である里。そこで米や野菜を作ったり、ぶどう園・みかん園・くり園などで収穫を楽しんだりすることができます。「昔から金武で農業をして来られたかたは、田畑の管理をするだけではなく、講習会の講師や野菜づくりの手ほどきもしてくれます。種や苗、農具や資材も揃っているので、安心して農業体験ができますよ」と松本さん。65歳以上の農業指導員を2名、雇用しました。


福岡市と提携したサステナブルツアー

『かねたけの里公園』を管理している福岡市住宅都市局は、市民のレクリエーションや市民と公園との在り方を考える部署です。そこで福岡市と提携し、農家の指導による収穫体験や竹林を保全する体験などのサステナブルツアーも開催。全国的にも農家の高齢化などによる放置竹林が問題になっていますが、竹林は管理しないと森を侵食していくので、間伐をおこなうのです。切った竹は細かく砕いてチップにし、堆肥として活用。適切に竹林の手入れをすれば景観も守れ、タケノコという山の幸ももたらしてくれます。タケノコ掘り体験は5倍の応募があるほどの大人気ツアー。このように農の営みの中で、里山の保全や循環などを都市部の住民にも感じてもらう機会を提供しています。

 松本さんは「都心部から近いので、気軽に山林を守り、生き物を守るツアーを楽しんでほしいですね。皆さんの食卓にのぼるお米や野菜が、どういう風景の中で育ち、どういう思いで育てられているのか感じてほしい。生物多様性が注目される時代ですが、この公園で生き物との共生も学んでもらえたら嬉しいですね」と語ります。


 

様々な生き物を観察できる

公園の奥の小高いところに、もともと農地だった頃に造られたダム(農業用ため池)があります。そこからなだらかな坂をくだって用水路が通してあり、畑で水をくめるようになっています。


さらに先にある田んぼには水がたまり、そこにニホンアカガエルのオタマジャクシがたくさん泳いでいました。緑色のアマガエルよりも少し早く孵化する種類です。他にもアメンボや、ホタル・ドジョウといった希少な生物もいるそうです。虫や小動物、野鳥も数種いて、まさに生物多様性や食物連鎖を感じる場となっています。


 

景観を守るために種苗や肥料の種類も指定

1回限りの農業体験ではなく、10坪(30平米)の農地を年間通して使用する場合は、使用料は年に5万円で枠は150組ほど。そこに福岡市民からの応募が約2倍、来ます。

ここは貸し農園ではなく、「練馬方式」で運営。東京都練馬区にある農業体験農園では “農家が開設し、耕作の主導権を持って経営・管理している農園”であり、“利用者は、入園料・野菜収穫物代金を支払い、園主(農家)の指導のもと、種まきや苗の植付けから収穫までを体験”するルールです。種苗や肥料も指定されるので自由に好きな作物が作れるわけではなく、「自分だけ肥料なしの自然栽培がしたい」と言っても許されません。作物の種類が指定されることで、景観も守られます。同時に貸し農園(宅地並み課税)よりも安価に米づくりなどを体験でき、より多くの市民が恩恵を受けられるのです。

 


 

コロナ禍を経て、10周年でカフェと拠点施設をオープン

2012年のオープンから10年たった頃は、コロナ禍のまっただ中。利用者は落ち込みました。しかし感染を避けてアウトドア・キャンプ人気が上昇し、“食”の重要性やSDGs、またワーケーションへの注目も高くなりました。2022年11月には、常設のキャンプエリアやカフェのある拠点施設『CO_YARD KANATAKE(コヤード カナタケ)』が新設。田畑の近くにある“小屋”と泊まれる“宿”、そして“CO(みんなの)YARD(庭)のような存在になりたい”という想いが込められています。


 『CO_YARD KANATAKE』と福岡市中央区にある人気のコーヒー店『manucoffee(マヌコーヒー)』との共同運営で、カフェ&アンテナショップ『manuastand(マヌア・スタンド)』が館内に同時オープンしました。

丁寧に淹れられたコーヒーはもちろん、地元産の野菜やお米を使ったCO_YARD KANATAKEオリジナルカレーやワッフルなども味わえます。

 

 


『manucoffee』は「コーヒーを中心とした環境プロジェクトを通じて新しい循環を創造し、コーヒーが自然と調和するように、街と人とmanucoffeeが調和するひとつのエコシステムを作」ることを謳っています。長い間、コーヒーを淹れる際の豆カスや、焙煎後に出る薄皮がどうしても出てしまうことに心を痛め、土壌研究の専門家と取り組んで来られました。そして産業廃棄物である豆かすと薄皮を再利用し、100%天然の高品質有機肥料“マヌア”を開発されたのです。もちろんカフェでその肥料や、それを使って栽培したお米なども販売されています。

『manucoffee』は、プラスチックのカップ、フタ、⽜乳パックなどゴミの再資源化を図り、大名店にコンポストを設置。フルーツの皮なども堆肥化して来ました。テイクアウトのストローはプラスチック製ですが、イートインの場合は全店舗サトウキビストローを提供。使用後は回収してもちろん堆肥化と、ゴミ減量にも尽力しています。カフェ『manuastand』で販売される雑貨にも、再生プラスチックのトレーなどエコ商品が並びます。

 


『かねたけの里公園』に隣接して、有機肥料マヌアを撒いている農地『マヌの里』があります。『manucoffee』の取組みに協力的な地元の農家さんが「高齢で農業できないので使って」と農地を無償提供してくださったのです。圃場整備はされておらず、ボランティアの人が手入れをしています。ここでマヌア肥料を使って野菜(マヌベジ)や米、麦茶用の麦などを作っています。今、コーヒーがハウス栽培できるか挑戦中です。


松本さんは、「コロナ禍で外出が制限された時は、それまで横ばい状態だった利用者数がどんどん減り、閉園を考えたこともありました。しかし産官学民の連携も整い、地元の農家さんとも話し合いを重ね、新しいチャレンジをすることになったんです。農業指導員・カフェのスタッフ含め、15名雇用しています。もともと金武地区はブドウの産地なので産地直売などもやりたいです。ここが地域活性化の拠点となり、次のステップへと進んでいけるといいですね。地主さんは世代交代していますが、これからは若手農家と関係を創っていきたいと考えています」。

『CO_YARD KANATAKE』は人や地域のつながりを大切にしながら、「里山のアップサイクル」にアプローチする“アンテナ“機能を持ち合わせています。「アップサイクル」とは、廃棄するつもりの物に手を加えて、新たな価値を生み出すこと。環境への負荷が「リサイクル」よりも低く、前よりも質がアップするものです。そのような意識を持つきっかけとなる施設が誕生しました。

福岡型サステナブルツーリズム推進事業

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